//経営・事業診断
何から手をつけるか分からないときの、順番の決め方
売上のこと、後継者のこと、設備のこと、資金のこと。課題は思い当たるのに、どれから手をつければよいのかが決まらない。決まらないまま、気がつけば何年か過ぎている。産地の事業者の方から、いちばんよく伺うお話です。順番が決まらないのは、課題が多いからではありません。
順番が決まらない本当の理由
課題が5つあったとしても、それぞれが独立しているなら、順番は案外すぐ決まります。急ぐものから手をつければよいからです。
決まらなくなるのは、課題どうしがつながっているときです。たとえば「売上が伸びない」「後継者がいない」「設備が古い」という3つは、一覧にすると別々の項目に見えます。けれども実際には、売上の見通しが立たないから後継者に「継いでくれ」と言えず、後継者が決まらないから設備投資の判断ができない、という具合に、ひとつながりになっていることが少なくありません。
この状態で「どれが最優先か」を考えても答えは出ません。どれを選んでも、他の課題が先に解決していないと動けないからです。順番を決めるとは、優先度に点数をつけることではなく、どの課題が、他の課題の前提になっているかを見つけることです。
そしてもうひとつ、順番を難しくしている事情があります。担い手が減り、暮らしのなかで工芸品が置かれる場所が変わり、流通のかたちも動いています。お客様に見つけていただく道筋も、この数年で大きく変わりました。原材料の調達も以前どおりにはいきません。足元の課題が動いている最中に、順番を決めなければならない――これが、いま産地の事業者の方が置かれている状況です。だからこそ、一度立ち止まって全体を見渡す時間に意味があります。
5つの課題と、それぞれの打ち手
私たちが経営・事業診断で伺うとき、課題を次の5つに整理しています。まずはご自身の状況が、どこに当てはまるかをご覧ください。
| 課題 | 考えられる打ち手 |
|---|---|
| 後継者や担い手の確保・育成 | 人材の確保、教育 |
| 売上の増大、事業規模の拡大 | 商品開発、販路開拓、情報発信 |
| 原材料価格の低減、調達の安定化 | 共同購買、価格交渉、仕入先の開拓 |
| 老朽化した設備の更新、作業環境の改善 | 設備投資計画、DX推進、組織体制の見直し |
| 資金調達の安定化、設備投資費用の確保 | 補助金申請、金融機関との交渉 |
この表を眺めていただくと、いくつかの組み合わせが見えてきます。設備の更新は、資金の課題と切り離せません。担い手の確保は、売上の見通しが立っていないと踏み出せません。単独で完結する課題は、実はほとんどありません。
「急ぐこと」と「効くこと」は、別のものです
順番を考えるとき、多くの場合は「急ぐもの」から手をつけます。資金繰り、目の前の納期、辞めそうな職人さん。放っておけない事情があるからです。
ただ、急ぐことだけを追いかけていると、毎年おなじ場所に戻ってきます。火を消すことはできても、火が出る仕組みは変わらないためです。
逆に、効くことだけを見て動くのも難しい。新しい商品をつくる、販路を切りひらく。どれも効きますが、成果が出るまで時間がかかります。その間の資金や人手が続かなければ、途中で息が切れます。
ですから、課題を一列に並べるのではなく、「急ぐこと」と「効くこと」の2列に分けて並べることをおすすめしています。そのうえで、急ぐことのなかから当座をしのぐ手を、効くことのなかから一年かけて育てる手を、それぞれ一つずつ選びます。同時に走らせる本数を絞ることが、続けるための条件になります。
2列に分けるときは、書き出す順番を決めておくと迷いません。まず、放っておくと三か月以内に困ることを、思いつくまま全部書き出します。金額の大小や、解決できそうかどうかは、この時点では考えません。次に、三年後の売上をつくるものだけを書き出します。こちらは数が少なくてかまいません。二つか三つに収まるのが普通です。
書き出してみると、両方の列に顔を出す項目が見つかることがあります。たとえば受発注の管理を紙から変えることは、いまの手間をすぐ減らしながら、数年後の生産量にも効きます。両方に出てくるものがあれば、それが最初の一手です。どちらか一方にしか出てこない項目より、迷わず先に着手できます。
見落とされやすいのは、うまくいかなかった経験のほう
私たちが診断で伺う項目の最後は、「外部への相談について」です。相談したい内容だけでなく、相談していない理由も必ず伺います。
ここを飛ばさないのには、理由があります。以前に補助金の申請をして採択されなかった。展示会に出たけれど手応えがなかった。コンサルタントに入ってもらったが、話がかみ合わなかった。そうした経験があると、同じ種類の打ち手を勧められても、心情として動けません。
このとき問題なのは、その打ち手そのものではなく、進め方が合っていなかった場合がほとんどです。けれども外から見ているだけでは、それは分かりません。過去にうまくいかなかった経験は、次の順番を決めるための材料です。伏せずにお話しいただけると、遠回りを減らせます。
先に「10年後」を置くと、順番は決めやすくなります
もうひとつ、順番を決めやすくする方法があります。現在地から積み上げるのではなく、先に到達点を置いて、そこから逆算するやり方です。
診断では、5年後・10年後の姿を次の5つの型でお尋ねしています。
- いまの規模と体制を保ちながら、確実に続けていく
- これまでとは違う顧客層に向けた商品をつくる
- 体験や教育、文化の発信を担う拠点になる
- 海外市場へ出て、国際的に知られる存在をめざす
- 生産体制を強化し、規模を大きくしていく
どれを選ぶかによって、いま優先すべき課題は変わります。体制を保つことを選ぶなら、担い手と設備が先に来ます。海外を見据えるなら、商品と発信が先に来ます。正解はありません。ただし、選ばないままでは順番も決まりません。
ここまで書いてきたことは、頭では分かっていても、日々の仕事を回しながらご自身だけで整理するのは簡単ではありません。課題どうしのつながりは、内側にいるほど見えにくくなるものでもあります。
私たちは、経営・事業診断という形で、この整理をご一緒しています。決まった順番で伺い、課題を整理してご報告するところまでは、費用をいただいていません。その先に進むかどうかは、ご報告をご覧いただいてからお決めください。
ご相談の結果、私たちよりも適した相手がいると判断した場合は、そのようにお伝えします。お受けできないこともあります。そのうえで、お力になれると考えた場合にだけ、具体的な進め方をご提案しています。