新商品をつくる前に、市場で何を見るか moribito 2026年8月13日

新商品をつくる前に、市場で何を見るか

新商品の相談で最初に伺うのは、何を作るかではなく、誰に買っていただくかです。市場調査というと大がかりに聞こえますが、作る前に見ておきたいことは四つに絞れます。逆に、この四つを飛ばして試作から入ると、出来上がったものの良し悪しをどう判断してよいか分からなくなります。ここでは、何を見るのかを順に並べます。

「売れるかどうか」を調べにいくと、たいてい止まる

調査を始めようとして手が止まる原因は、たいてい問いの立て方にあります。「これは売れるでしょうか」という問いには、調べても答えが出ません。まだ存在しないものの結果を、調査で先取りすることはできないためです。調べて分かるのは、いま誰が、どこで、いくらで、何を買っているかという現在の事実だけです。

それでも調べる値打ちがあるのは、当てるためではなく、外し方を狭めるためです。買っている人がいない場所に置かない。すでに満たされている用途に、同じ顔をしたものを重ねない。この二つを避けられるだけで、試作のやり直しはかなり減ります。

もうひとつ、調査は自社を説明する材料にもなります。取引先に新しい商品を持ち込むとき、作り手の思いだけで話すより、どの場面の、どの層に向けたものかを添えられるほうが、相手も扱い方を決めやすくなります。調査は、買い手に見せる資料である前に、こちらが判断するための材料です。

見るのは、次の四つ

四つとも、大がかりな調査を発注しなくても、足を運んで見られるものです。順番にも意味があります。

見るもの 確かめること 分かること
誰が買っているか 年齢層、贈り物か自分用か、初めてか買い足しか 作るものの寸法・数・箱の要不要
どこで買っているか 店か、催事か、旅先か、画面の中か 届け方と、必要になる説明の量
いくらで並んでいるか 近い用途の品が、どの価格帯に集まっているか 価格を決めるときの手がかり
すでに何が満たされているか その用途で、いま何が選ばれているか 重ねても意味が薄い領域

四つ目が、いちばん飛ばされます。足りていないものを探すより、足りているものを先に把握するほうが早いことがあります。すでに十分に選ばれているところへ、同じ用途で入っていく理由は、よほどはっきりしていないと続きません。

二つ目の「どこで」も、思い違いが起きやすいところです。見るべきは、同じような品が置かれている場所ではなく、買う方がその用途のものを探しに行く場所です。贈り物として探されているなら、探し先は工芸の売り場とは限りません。旅先で求められているなら、荷物になるかどうかが選ばれる理由に入ってきます。売り場を先に決めてから作ると、この順序が逆になります。

なお、この四つは競合を調べる作業ではありません。同業の方が何を作っているかより、買う方が何を選んでいるかを見ます。買う方から見れば、選択肢は同業の品だけではなく、まったく別の材質の日用品や、そもそも買わないという選択も並んでいます。

いちばん確かな材料は、自社の中にある

外に出かける前に、手元に材料があります。既存のお客さまと、いまの取引先です。すでに買ってくださった方は、なぜ選んだのかを答えられる唯一の方々です。買った理由、贈った相手、使っている場面。この三つを何人かに伺うだけで、想像で立てていた前提がいくつも入れ替わります。

同じくらい大切なのが、買わなかった方の理由です。展示会や催事で手に取って、置いて戻された。そのとき何を見て戻されたのか。高いと言われたのか、置く場所が思い浮かばないと言われたのか、洗えるかどうかを聞かれたのか。理由が違えば、直すところも違います。値段の話に見えて、実際は用途が伝わっていないだけということもあります。

伺い方にも、少しだけ工夫の余地があります。「なぜ買ってくださったのですか」と伺うと、多くの方が褒め言葉を返してくださいます。「そのとき、ほかに何と迷われましたか」と伺うほうが、実際の判断が出てきます。迷った相手が同業の品なのか、まったく別のものなのか、あるいは買わないことだったのか。そこに、次に作るものの居場所が現れます。

そのうえで、発想の入口を決めます。持っている技術から考えるのか、使われる場面から考えるのか。どちらも成り立ちますが、調べる順序が変わります。技術から入るなら、その技術が活きる用途を探すことになります。場面から入るなら、その場面に合う作り方を選ぶことになり、いまの設備で無理のない範囲かどうかを先に確かめることになります。

どちらを選ぶかは、五年後、十年後にどうなっていたいかとつながっています。今のお客さまに深く応えていくのか、新しい層へ広げるのか、体験や学びの場を持つのか。この整理は5年後・10年後の姿を決めるにまとめてあります。将来像が決まっていないまま新商品だけを増やすと、品数は増えたのに、どこへ向かっているのか分からなくなります。

手をつける順序

次の五つは、費用をかけずに始められます。書けない項目があれば、そこが最初に調べるところです。

  • いまの商品を、誰が、どの場面で使っているかを言えるか
  • 直近で買ってくださった方に、選んだ理由を伺ったことがあるか
  • 近い用途の品が並んでいる場所へ、実際に足を運んだことがあるか
  • その場所での価格帯を、上と下で挟んで言えるか
  • 新しい商品を、既存のどの取引先に見せるかが決まっているか

順序としては、自社の中を見る、置かれている場所へ行く、価格帯を確かめる、それから作る、になります。試作は最後です。試作から始めると、判断の基準が「気に入ったかどうか」しか残らず、身内の意見で行き先が決まってしまいます。

そして、調べたことは書き留めておかれることをお勧めします。次に新しいものを考えるとき、同じ場所を歩き直さずに済みます。取引先へ持ち込むときの説明にも、そのまま使えます。項目ごとの整理はガイド 第4章 商品をつくるに置いています。

私たちは、何をどう作るかについて、産地の外にいる者が正解を持っているとは考えていません。お力になれるのは、誰に向けて、どこで、いくらで、という事業の側の組み立てです。作るものが決まっている場合でも、届け方から一緒に見ていくことがあります。売上の側から全体を見直したいときは「売上を伸ばす」を4つに分けて考えるもあわせてご覧ください。

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