紙の受発注を変える前に決めること moribito 2026年8月13日

紙の受発注を変える前に決めること

受発注や在庫の管理を紙から変えたい、というご相談は少なくありません。ただ、道具を入れたのに紙も残り、二重の手間だけが増えてしまった、という話も同じくらい伺います。うまくいかない原因は、たいてい道具の選び方ではなく、入れる前に決めていなかったことのほうにあります。ここでは、決めておきたい四つを先に置きます。

紙は、記録以外の仕事もしている

手元の伝票や台帳を見ると、そこに書かれているのは注文の内容だけではありません。誰がいつ受けたか、どの工程まで進んだか、誰に渡したか。紙は記録であると同時に、指示書であり、引き継ぎの合図でもあります。机に置かれた一枚が「次はあなたの番です」を意味している工房は、めずらしくありません。

ここを見ずに置き換えると、記録は残るのに、仕事が回らなくなります。画面の中に注文が入っていても、それが自分に回ってきたと分かる仕組みがなければ、誰も気づきません。置き換えるのは紙ではなく、紙が担っていた働きのほうです。

紙にはもう一つ、後から見返すという働きもあります。去年の同じ時期に、どこから、どのくらいの注文があったか。あの品を最後に納めたのはいつだったか。綴じてある紙をめくれば分かるという状態は、探すのに時間はかかっても、確かではあります。置き換えたあとに「去年のことが分からなくなった」となるのが、いちばん困ります。過去のぶんをどこまで移すのか、あるいは紙のまま残すのかも、先に決めておきたいところです。

ですから、最初の作業は道具を探すことではありません。いま使っている紙を一週間ぶん集めて、どの紙が誰から誰へ渡っているかを並べてみることです。手間はかかりますが、これをやっておくと、後の判断がほとんど自動的に決まります。

入れる前に決める、四つ

次の四つを決めないまま始めると、決まっていない部分が現場に押し戻され、結局は紙が残ります。

決めること 決めないまま始めると
どこまでを対象にするか(注文だけか、在庫まで含めるか) 入力する項目がどんどん増え、続かなくなる
誰が入力するか 手が空いている人が入れる形になり、抜けと重複が出る
いつ入力するか(その場か、一日の終わりか) 画面の数字と現物が合わなくなり、誰も画面を信じなくなる
紙をいつやめるか 二重の管理が続き、手間だけが増えたという結論になる

四つのうち、いちばん効くのが最後の一つです。紙とデジタルを併用する期間は、必ず期限を切ってください。「慣れるまで両方で」と始めると、慣れる日は来ません。片方をやめる日が決まっていて初めて、人はそちらへ寄せていきます。

二つ目と三つ目は、まとめて「誰が、いつ」の話です。ここが曖昧なまま始まる例が、いちばん多いように思います。入力する人が決まっていないということは、入力されない日があるということです。数字が合わない日が数回続くと、現場は画面を見なくなり、確認のために現物を数えに行くようになります。そうなると、以前より手間が増えます。

在庫は、数より場所と状態でつまずく

在庫の管理というと、まず数を数える話だと思われがちです。けれども実際に分からなくなるのは、数よりどこにあるか、どういう状態かのほうです。仕上げの途中のもの、店へ預けてあるもの、見本として出してあるもの、直しのために戻ってきたもの。これらを「在庫」に含めるのか外すのかを決めていないと、数え方が人によって変わります。

もうひとつ、名前の付け方があります。同じ品を、人によって呼び方も書き方も変えている工房は多くあります。寸法違い、色違い、箱の有無。この呼び分けを先に決めないまま入力を始めると、何を入れても後で混ざります。ここだけは面倒でも、始める前に一覧にしておく値打ちがあります。品番という言い方が堅苦しければ、社内の呼び名で構いません。揃っていることのほうが大切です。

数え直す日を決めておくことも、地味ですが効きます。画面の数字と現物は、どれだけ気をつけても少しずつずれていきます。ずれること自体は避けられないので、月に一度なり、四半期に一度なり、合わせ直す日を先に置いておきます。ずれに気づいた人がその場で直す形にしておくと、直した記録が残らず、なぜ合わなかったのかが分からなくなります。

そして、全部を一度に変えないことです。注文の受け方だけ、あるいは在庫のうち動きの大きい品だけ、というように範囲を狭めて始めるほうが、続きます。範囲が狭ければ、うまくいかなかったときに紙へ戻すのも簡単です。戻せる形で始める、というのは、この種の取り組みでは臆病さではなく設計です。

手をつける順序

次の五つは、道具を選ぶ前に手元で決められます。

  • いま使っている紙が、誰から誰へ渡っているかを図にできるか
  • 最初に変えるのは、注文か、在庫か、どちらかに絞れているか
  • 入力する人と、入力する時刻が決まっているか
  • 品物の呼び分けが、社内で一つに揃っているか
  • 紙をやめる日を、月単位で決められるか

外の方に手伝っていただく場合も、頼むのは道具選びの前段です。いまの仕事の流れを一緒に書き出してもらう、というのが、いちばん値打ちのある頼み方だと考えています。そこさえ出来ていれば、道具は入れ替えが利きます。

この五つが埋まっていれば、道具は後から選べます。逆に、埋まらないまま道具から入ると、その道具の作法に合わせて仕事のほうを変えることになり、現場に無理が出ます。

もうひとつ申し上げておくと、この取り組みは急ぎの用件ではないことが多いものです。それでも効き目は長く続きます。急ぐことと効くことは別で、両方に当てはまるものから手をつけるという考え方は「急ぐこと」と「効くこと」を分けるにまとめてあります。何から着手するかで迷われている場合は何から手をつけるか分からないときの、順番の決め方もあわせてご覧ください。

私たちがこの領域でお手伝いするときも、道具の話から入ることはしていません。まず紙を見せていただき、誰がどこで手を止めているかを一緒に確かめます。そのうえで、変えるところと、当面そのままでよいところを分けます。項目ごとの整理はガイド 第8章 設備・生産に置いています。

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