「売上を伸ばしたい」と考えたとき、最初に新商品を思い浮かべることがあります。けれども、売上をつくる道は新商品だけではありません。いまある商品を、いまのお客様にもう一度選んでいただく道もあれば、別のお客様へ届ける道もあります。大きな言葉のまま考えず、商品とお客様の組み合わせに分けると、いま確かめることが見えやすくなります。
売上は一つの数字でも、入口は一つではありません
売上は、最後には一つの数字として表れます。そのため、数字が足りないと感じると、商品数を増やす、販売先を増やす、発信量を増やすといった打ち手を、まとめて始めたくなります。
しかし、商品をつくる仕事と、届ける相手を見つける仕事は別です。さらに、すでに取引のある方へ届ける場合と、まだ接点のない方へ届ける場合でも、必要な準備は変わります。ここを分けないまま複数の施策を動かすと、結果が出なかったときに、商品が合わなかったのか、届け方が合わなかったのかを判断できません。
まず、商品を「いまある商品」と「新しい商品」に分けます。次に、お客様を「いまのお客様」と「新しいお客様」に分けます。この二つの軸を組み合わせると、売上をつくる道は4つの区画に整理できます。
| いまのお客様 | 新しいお客様 | |
|---|---|---|
| いまある商品 | もう一度選んでいただく | 届ける相手と場所を広げる |
| 新しい商品 | 関係のある方へ新しい提案をする | 商品と販路を組み合わせて育てる |
4つは、どれが優れているという関係ではありません。必要な時間、費用、確認すべきことが違います。大切なのは、いま取り組もうとしている施策がどの区画にあるのかを、先に言葉にすることです。
4つの区画で、見るものを変えます
いまある商品を、いまのお客様へ
この区画では、新しいものを増やす前に、一度選んでくださった方との関係を確かめます。どの商品が、いつ、どのような用途で選ばれたのか。次に必要になる時期はあるのか。問い合わせや購入の記録が残っているか。顧客管理は、販売のためだけでなく、すでにある関係を途切れさせないための土台になります。
商品そのものを大きく変えなくても、用途の伝え方、組み合わせ、案内する時期を整えることで、選びやすくなる場合があります。ここで見るのは、新商品の数ではなく、すでにある接点を活かせているかです。
いまある商品を、新しいお客様へ
商品には手を加えず、届ける相手や場所を広げる区画です。ホームページ、SNS、展示会、セレクトショップ、ECは、どれも販路や接点になり得ますが、同じ役割ではありません。誰に届けたいのかが曖昧なまま道具を選ぶと、更新や出展そのものが目的になってしまいます。
先に確かめたいのは、現在の商品がどのような場面で使われ、何を理由に選ばれているかです。そのうえで、その価値を必要とする方がどこで情報を探し、どのような条件なら購入や商談へ進めるのかを考えます。販路を増やすことと、売れる道筋をつくることは同じではありません。
新しい商品を、いまのお客様へ
すでに関係のある方へ新しい提案をする区画です。新商品というと、これまでにない意匠や用途を考えることに目が向きますが、出発点は身近な声にもあります。いまの商品を使うなかで困ること、選びにくいこと、置く場所や使う場面の変化を確かめると、変える部分と残す部分を分けやすくなります。
ここでは、技術から発想した案と、使う場面から発想した案を混ぜずに並べることが役立ちます。どちらから始めたのかが分かれば、試作を見たときの評価軸も定まります。作れるかどうかだけでなく、いまのお客様が選ぶ理由につながっているかを確かめます。
新しい商品を、新しいお客様へ
商品と販路の両方を動かす区画です。可能性がある一方で、何が結果に影響したのかを見分けにくくなります。市場調査、コンセプト、試作、価格、発信、販売場所を一度に決めるのではなく、仮説を分けて確かめる必要があります。
たとえば、まず使う場面と届けたい相手を言葉にし、その条件に合う試作を少数用意する。その反応を見てから、価格や販売場所を確かめるという順序があります。最初から完成形を決めるより、どの判断が合っていて、どこを変える必要があるのかを残せます。
「売れない理由」を一つに決めないこと
売上が伸びないとき、商品、価格、発信、販路のどれか一つを原因だと決めたくなります。けれども、実際には複数の条件がつながっています。商品を知ってもらえていないのか。知ってもらえているが、用途が伝わっていないのか。商談にはなるが、数量や納期の条件が合わないのか。購入後の関係が残らず、一度きりになっているのか。表面に出る数字が同じでも、次の一手は異なります。
判断材料は、外部の大きな統計だけではありません。手元にある受注記録、問い合わせ、商品別の動き、販売先ごとの違いも一次情報です。記録が紙や担当者の記憶に分かれているなら、最初から新しい仕組みを導入する必要はありません。一定の期間だけ同じ項目で書き出し、比べられる状態にするところから始められます。
- よく動く商品と、動きが止まっている商品を分けられるか
- 新規のお客様と、継続して選んでくださるお客様を分けられるか
- 問い合わせから購入まで、どこで止まっているか分かるか
- 販売先ごとに、数量・納期・伝え方の違いを説明できるか
- 取り組んだ施策と、その後の変化を結びつけて残しているか
答えられない項目があっても、それ自体が失敗ではありません。いま記録できていないものが分かれば、次に残す項目を決められます。数字を集める目的は報告書をつくることではなく、4つの区画のどこから動くかを決めることです。
最初の一手は、いちばん確かめやすい区画から
4つの区画を並べたら、すべてを同時に始めるのではなく、現在の情報で最も確かめやすい区画を一つ選びます。すでに購入記録があるなら「いまある商品×いまのお客様」から見られます。展示会や問い合わせで新しい層との接点があるなら「いまある商品×新しいお客様」を確かめられます。新商品案がある場合も、最初にどのお客様へ見せるのかを決めると、試作の評価が具体的になります。
次に、実施することと、見たい変化を一組にします。「SNSを始める」ではなく、「どの商品が、どの用途で見られたかを確かめる」。「新商品をつくる」ではなく、「いまのお客様が、どの場面なら選ぶかを確かめる」という置き方です。行動だけでなく、判断したいことまで書くと、続けるか止めるかを決めやすくなります。
売上の課題は、商品だけ、販路だけ、発信だけでは扱えません。だからこそ、最初に全体を4つへ分け、どこを動かしているのかを見失わないことが大切です。日本工芸ラボでは、商品開発、販路開拓、情報発信、生産や顧客管理を切り離さず、現在地から順番をともに考えます。