//原材料・調達
原材料が上がったとき、値上げの前に
原材料が上がったとき、まず頭に浮かぶのは値上げのことだと思います。ただ値上げは、最後に残る手ではなく、いくつかある手のうちの一つです。しかも順番を間違えると、値上げそのものが通りにくくなります。ここでは、単価を動かす前に確かめられることと、一社では抱えきれない部分の見分け方を並べます。
値上がりは、交渉の前の段階で起きている
原材料の値上がりは、取引先との力関係だけで起きているわけではありません。産出量そのものの変化、燃料や輸送にかかる費用の上昇、扱う業者の減少。どれも一社の努力の外側にある動きです。押し返せる部分と、押し返しようのない部分を分けないまま話し合いに入ると、時間だけが過ぎていきます。
まず確かめたいのは、上がったのが仕入れの単価だけなのか、それとも入手できる量や時期まで変わったのかです。量と時期が変わっているなら、価格の話より先に、来年も同じ作り方を続けられるかどうかの話になります。値段は下げてもらえても、無いものは買えません。
あわせて伺っておきたいのが、上がった理由です。仕入先から届くのは「いくら上がったか」だけということが少なくありません。ただ、原因が燃料や輸送にあるのか、産出そのものが減っているのか、扱う業者が減って手間が増えたのかで、話の性質はまったく違います。前者は戻る見込みがあり、後者は戻りません。戻る見込みのある値上がりに、恒久的な単価改定で応じてしまうと、下がったときに元へ戻しにくくなります。
供給そのものが細っている場合、取引条件の交渉に持ち込んでも解けません。この見分け方については原材料の脆さは、産地ひとつでは解けないで扱っています。一社の問題として抱え続けるのか、同じ材料を使う方々と一緒に持ち出す話にするのか、その分かれ目が最初にあります。
値上げの前に、四つの手がある
単価の改定以外に取れる手は、大きく四つです。どれも即効性があるわけではなく、向いている場面と、成立させるために要るものが違います。
| 手 | 向いている場面 | 成立させるために要ること |
|---|---|---|
| 同じ材料を使う方々と量をまとめる | 一社あたりの使用量が少なく、単価が量で決まっている | 規格と支払い条件を揃えること。取りまとめる人が要る |
| 価格交渉を組み直す | 長く同じ条件のまま取引してきた | 年間の使用量と今後の見通しを、数字で示せること |
| 仕入先を新しく開拓する | 一社に頼りきりで、比べる相手がいない | 品質のどこまでなら許容するかを、先に言葉にしておくこと |
| 使い方を見直す | 工程の途中で材料が失われている | どこでどれだけ失われているかを、一度数える手間 |
この四つは、どれか一つを選ぶものではありません。効き始めるまでの時間が違うため、同時に置いておくものです。使い方の見直しは、相手がいなくても今日から始められます。量をまとめることと仕入先の開拓は、相手が要るぶん時間がかかります。価格交渉はその中間で、材料が揃っていれば数か月で動くことがあります。
量をまとめる話は、価格の交渉から始めると壊れやすいものです。同じ材料に見えても、求める等級や寸法、納品の単位が少しずつ違うためです。先に揃えるのは値段ではなく、規格と支払いの条件です。そこが揃わないまま「安くしてほしい」と束になって持ちかけると、仕入先は個別に対応せざるを得ず、結局それぞれの条件に戻ります。
逆に言えば、値上げの話が始まってから慌てて四つを並べても、間に合うのは使い方の見直しだけです。落ち着いているうちに、誰と組めそうか、どこに聞けそうかを見ておくと、次に上がったときの手が増えます。
見落とされやすいのは、単価の外側にある
値上がりの話は単価に集まります。けれども実際に支払っている総額は、単価と使う量の掛け算です。単価が一割上がっても、工程の途中で失われている量が減れば、総額は変わらないこともあります。単価は相手が決めますが、使う量はこちらで決められます。ここは交渉より確実で、しかも交渉の材料にもなります。
もう一つ、在庫の持ち方があります。値上がりが続くと分かると、まとめて買っておきたくなります。ただ、置き場所と資金がふさがり、材料によっては置いている間に状態が変わります。まとめ買いが効くのは、保管しても質が落ちず、使う量が読めるものに限られます。読めない材料でこれをやると、値上がり分より在庫の負担のほうが大きくなります。
端材や規格から外れたものの扱いも、見落とされやすい場所です。使えない前提で処分していたものが、寸法の小さい商品では十分に使えるということがあります。これは材料の話であると同時に、商品の話でもあります。売上の側から考えるときの整理は「売上を伸ばす」を4つに分けて考えるにまとめてあります。
値上げをするなら、順番がある
四つの手を置いたうえで、それでも単価の改定が要る場面はあります。そのときに効くのは、伝え方の工夫よりも順番です。次の五つは、相手に持ちかける前に手元で確かめられます。
- 自社の年間の使用量と、直近数年の仕入れ単価の推移を書き出せているか
- 工程の途中で失われている量を、一度でも数えたことがあるか
- 値上げを伝える相手を、取引の大きい順に並べられているか
- 相手ごとに、いつから、どのくらい上げるかを分けて決めているか
- 値上げと同時に伝えられる変更(納期・最小の数量・支払いの条件)があるか
一律に同じ率で、同じ日から、というやり方は話が早い代わりに、いちばん失いたくない取引先から先に反応が返ってきます。取引の大きい相手ほど、早く、個別に。順序が逆になると、こちらの説明より噂のほうが先に届きます。
そして、値上げをお願いする場では、値上げ以外の変更も一緒に置けます。最小の数量、納期の幅、支払いの時期。単価だけを議題にすると、相手も単価だけで判断します。取引全体を一度見直す機会として持ちかけるほうが、双方に動かせる余地が残ります。
材料の話は、一社の工夫で片づく部分と、産地全体で見なければ動かない部分が混ざっています。混ざったまま抱えていると、どこまでが自分の努力の範囲か分からなくなり、打つ手のわりに気持ちだけが消耗します。私たちがまず伺うのも、どこまでが自社の中の話で、どこからが外の話か、という切り分けです。項目ごとの整理はガイド 第7章 原材料と調達に置いています。