//担い手・事業承継
担い手不足を、採用の話にしない
人が足りない、若い人が来ない、募集を出しても応募がない。産地の皆さまから、こうしたお話をよく伺います。ただ、伺っていくうちに、困っておられることの中身が募集とは別のところにある場合が少なくありません。人数の話と、工程の話が、同じ言葉のなかで混ざっているのです。ここを分けておくと、次にすべきことがずいぶんはっきりします。
「人が足りない」には、二つの別の話が混ざっています
ひとつは、手が足りないという話です。注文はあるのに作れる量が追いつかない、繁忙の時期だけどうしても回らない。これは人数の話ですから、迎えるか、外に出すか、受ける量を絞るかで考えます。
もうひとつは、代わりのきかない工程が、おひとりの手に残っているという話です。その方が休まれた日に、品物が仕上がらない。これは人数の問題ではありません。仮に若い方が二人来られても、その工程を覚えるまでの年月が空白のまま残ります。
この二つは、対処がまったく違います。前者は募集や外注で動きますが、後者は募集では動きません。それなのに、どちらも「人が足りない」という同じ一言で語られるため、募集から手をつけてしまい、時間だけが過ぎることになります。減っているのは人数というより工程である、という見方については担い手が減るということに整理しています。
募集を出す前に、任せる仕事を言葉にする
迎えると決めた場合でも、その前に決めておきたいことがあります。何を任せるのか、です。ここが決まらないまま募集を出すと、来てくださった方に渡す仕事が日によって変わり、本人も周りも落ち着きません。
紙を一枚用意して、次のように並べてみてください。手間はかかりますが、一度作れば何年も使えます。
| 書き出すこと | 見えてくること |
|---|---|
| 品物が仕上がるまでの工程を、すべて | 外の方に担っていただいている工程が、どれだけあるか |
| その工程を、いま誰がしているか | 一人にだけ印がつく工程はどれか |
| 覚えるのに、どのくらいかかるか | いま手をつけないと間に合わない工程はどれか |
| 代わりを頼める先があるか | 心当たりの無い工程が、いくつあるか |
| その工程が止まると、何が作れなくなるか | 先に手当てすべき順番 |
この一覧ができると、募集の文面も変わります。「人手を探しています」ではなく、「この工程を引き継いでくださる方を探しています」と書けるようになります。読む側にとっても、自分に務まるかどうかが判断しやすくなります。
そして多くの場合、この一覧を作った時点で、募集より先にすべきことが見つかります。手順を書き残す、外の工房と話をしておく、いまおられる方の仕事を少し組み替える。どれも人を迎えなくても始められることです。技を残す進め方は技を記録するにまとめています。
外の工房に担っていただいている工程がある場合は、その先の事情も一緒に確かめておきたいところです。自社に後継の方がいても、頼んでいる先が続かなければ、品物は同じように止まります。踏み込んだ話に思われるかもしれませんが、長く取引してこられた間柄であれば、あと何年続けられそうかを伺えることが多いものです。時期が分かれば、慌てずに支度ができます。
来てくださっても続かないとき、原因は仕事の外にあります
迎えたけれど続かなかった、という経験をお持ちの方もおられます。このとき、本人の熱意や根気の話にしてしまうと、次も同じことが起きます。伺っていくと、原因が仕事そのものではなく、その周りにあることが多いのです。
よくあるのは三つです。ひとつ目は、作業の場そのものです。夏と冬の環境、重いものの運び方、危ないところ。慣れた方は身体が覚えていますが、来たばかりの方には毎日こたえます。ふたつ目は、教える側に時間が無いことです。教える方が受発注や在庫の管理に追われていると、教える時間は必ず後回しになります。三つ目は、任される範囲が見えないことです。いつまでに何ができるようになればよいのかが分からないと、続ける気持ちが保ちにくくなります。
私たちが経営・事業診断で伺う課題のなかには、担い手の確保・育成と並んで、設備の更新や作業環境の改善という項目があります。担い手の課題に見えていたものが、実際には仕事の回し方の話だった、ということは珍しくありません。そのときは、人を探す前に、そちらから手をつけたほうが早く動きます。
継ぐ話と、迎える話は、順番が違います
もうひとつ、混ざりやすいものがあります。事業を継いでいただく方を探す話と、働き手を迎える話です。この二つは重なる部分もありますが、確かめる順番が違います。
継いでいただく話であれば、相手を探す前に、いまの事業が渡せる状態にあるかを確かめておく必要があります。収支の見通し、借入がいつ終わるのか、そして工程が引き継げる形になっているか。ここが曖昧なままだと、候補の方が現れても話が前に進みません。詳しくは継げる状態かを確かめるをご覧ください。
働き手を迎える話であれば、先ほどの工程の一覧が出発点になります。どちらの話なのかを分けておくと、相談する相手も、使う時間も変わってきます。
どう進めるか
次の五つを、まず確かめてみてください。紙とペンだけで進められます。
- いま困っているのは、手が足りないことか、代わりのきかない工程があることか
- 工程をすべて書き出して、一人にだけ印がつく工程を数えられているか
- その工程を覚えるのに、どのくらいかかるかを言えるか
- 迎えるとしたら、何を任せるのかを一文で書けるか
- 以前に来てくださった方が続かなかったとき、その理由を思い出せるか
五つのうち二つ以上が空いているようでしたら、募集を出す前に、そこを埋めるところからのほうが早く進みます。いまは迎えない、という判断もあります。教える時間が取れない時期に迎えると、迎えた側も来た側も苦しくなります。順番を戻したほうがよいと考えたときは、当社からもそのようにお伝えします。
当社は、経営・事業診断から始めて、いまの状況を一緒に整理し、そのうえで打ち手を並べていきます。診断は、結果をご報告して課題を特定するところまでを無償で承っています。産地事業者の方に向けたご案内は産地事業者の方へにまとめています。