海外にも知っていただきたいので、サイトを多言語にしたい。よく伺うご相談です。ただ、翻訳から手をつけると、公開した後で困ることが出てきます。問い合わせが届いたけれど誰も返事を書けない、どのページを訳すか決まらないまま費用だけ膨らむ、一度作ったきり更新が止まる。どれも、翻訳の質とは関係のないところで起きています。先に決めておきたいことを整理します。
窓口を開くとは、返事をする約束をすることです
サイトを多言語にするということは、外から見れば「この言葉で問い合わせてよい」という表示になります。訳した時点で、返事も同じ言葉で書く前提が生まれます。ここが抜けたまま公開されている例を、ときどきお見かけします。
届いた問い合わせに返事ができないと、どうなるか。返さないまま日が過ぎ、やがて問い合わせ自体が止まります。問い合わせが来なくなったことは、数字の上では静かに起きるので、気づかれにくいところです。むしろ「反応が無いから海外は難しい」という結論になってしまうことがあります。
ですから、順番としては返事をする体制のほうが先です。当社が海外展開の基盤づくりで、多言語のサイトより先に連携の体制を置いているのも同じ理由です。止まる原因は、たいてい作ったものの側ではなく、受ける側にあります。基盤の順序はPHASE2 基盤づくりにまとめています。
翻訳を頼む前に決める、四つ
下の表は、翻訳を依頼する前に社内で決めておきたいことです。どれも費用のかからない決めごとですが、決まっていないと後から作り直しになります。
| 決めること | 決まっていないと起きること |
|---|---|
| 誰が、どの言葉で返事を書くか | 届いた問い合わせが止まり、やがて来なくなる |
| どのページを訳すか(全部か、一部か) | 訳す量が決まらず、費用と期間が読めない |
| 専門の言葉を、どう置き換えるか | 訳す人ごとに言葉が変わり、同じ品が別物に見える |
| 誰が、どのくらいの頻度で更新するか | 日本語だけが新しくなり、内容が食い違う |
二つ目については、全部を訳す必要はありません。初めての方が判断するために要るページだけで足ります。何を作っているか、どういう場面で使うものか、どうやって手に入れられるか、誰に連絡すればよいか。この四つが揃っていれば、最初は十分に働きます。載せる中身の考え方はホームページに何を載せるかに置いています。
四つ目は、意外に効いてきます。日本語のページだけ更新して、訳したページが古いまま残ると、取扱いや連絡先が食い違ったまま外に出続けます。更新を続けられる頻度で始めるほうが、結果として長く働きます。
表には入れていませんが、もうひとつ決めておきたいことがあります。どの言語から始めるかです。多くの場合、英語から、という話になります。それで間違いではないのですが、選び方には二通りあります。すでに訪ねてこられている方の言語から始めるか、これから取引したい相手の言語から始めるか。この二つは違う答えになることがあります。
すでに来ておられる方の言語から始めるほうが、手応えは早く出ます。問い合わせが実際に届くからです。一方で、これから出て行きたい先が決まっているのであれば、そちらの言語を先に用意するという判断もあります。どちらにしても、二つ以上の言語を同時に始めることはおすすめしていません。返事をする体制が、言語の数だけ要るためです。
機械で訳したものをそのまま載せてよいか、というご質問もよくいただきます。下訳として使うぶんには、費用も時間も抑えられます。ただし、産地の言葉や工程の名前は、機械では前提ごと落ちることがあります。そこだけは人の目を通してから出す、という線を引いておかれるとよいと考えています。
直したいのは言葉ではなく、前提です
訳しても伝わらないとき、多くの場合、訳の出来ではなく、前提の説明が抜けています。国内では書かなくても通じていたことが、書かれないまま訳されているためです。
たとえば、素材の名前をそのまま音で置き換えても、それが何であるかは伝わりません。木なのか、紙なのか、漆なのか。どこから採れるもので、手入れに何が要るのか。一文添えるだけで、読む側の判断が変わります。
用途も同じです。どの場面で使うものかが書かれていないと、飾り物として受け取られます。飾ることが悪いのではなく、選択肢が一つに狭まってしまうのがもったいないのです。
そして、確かめられる事実を書いておくことです。工程がいくつあるか、仕上げに何日かかるか、どこで作っているか。「伝統の技」といった言い方は、読む側にとって確かめようがありません。いまは、人が読む前に機械が読んで要約する場面も増えています。まとめられるのは、書いてあることだけです。書き方の勘所はAIに見つけられるということにまとめています。
日本語のほうが、先に整っている必要があります
もうひとつ、抜けやすい点があります。訳すもとになる日本語が薄いと、訳したところで薄いままです。翻訳は中身を増やしてくれません。
ですから、多言語にする前に、日本語のページで書けることを数えておくほうが早く進みます。作っているものの説明、工程、使い方、手入れ、取り扱っていただいている場所。手元にある材料を数えると、思っていたより書けることがあります。この数え方は、既存の記事サイトを作り直す前に、書けることを数えるで扱っています。
順序としては、日本語で判断材料を揃える、次に返事の体制を決める、その後に訳す。この順にすると、訳す範囲が自然に決まり、費用も読めるようになります。逆から進めると、訳した後で中身を足すことになり、二度手間になります。
どう進めるか
次の五つを、手元で確かめてみてください。
- 外国語で問い合わせが届いたとき、誰が返事を書くか決まっているか
- 訳すページを、四つ以内に絞れるか
- 素材と用途を、前提を知らない方に一文ずつで説明できるか
- 確かめられる事実(工程の数、日数、産地)が、日本語のページに書かれているか
- 更新を、誰がどのくらいの頻度で続けられるか
一つ目で決められないときは、無理に多言語にしなくてもかまいません。問い合わせフォームだけを外国語にして、返事は日本語で差し上げると先にお伝えしておく形もあります。できないことを隠さないほうが、信頼は保てます。
当社は、多言語にすれば海外から引き合いが来るようになる、とは考えていません。お力になれるのは、返事をする体制を先に組み立て、訳す範囲を絞り、言葉の置き換え方を揃えるところまでです。海外展開は事業計画から海外での販売まで五つの段階に分けて考えており、その全体を通じてご一緒します。経営・事業診断は、いまの状況を伺って課題を特定し、ご報告するところまでを無償で承っています。取り組みのご案内は海外展開サポートにまとめています。