//海外展開
海外に出る前に、国内で試す
「海外にも出してみたい」というご相談は、たいてい国の名前から始まります。どの国がよいか、どの展示会に出るか、通訳と輸送はどうするか。そこまで話が進んだところで止まってしまうことも、少なくありません。当社がご一緒するときは、その手前にもう一段を置いています。日本を訪れた方に、まず国内で手に取っていただく段です。遠回りに見えますが、この順番のほうが、あとの判断がずいぶん楽になります。
海外へ出るとは、前提を共有していない相手に選ばれること
国内で売ってきた品には、説明しなくても伝わる部分があります。どんな場面で使うのか、どのくらいの改まった席にふさわしいのか、手入れにどれだけ手間がかかるのか。買う方の暮らしが想像できるからこそ、言わずに済んでいたことがあります。
相手が変わると、その前提が外れます。置かれる部屋の広さも、食卓の高さも、贈り物の習慣も違います。同じ品が、日用のものとして選ばれることもあれば、飾るものとして選ばれることもあります。前提が違うと、値段の感じ方まで変わります。高いか安いかは品そのものではなく、その方の暮らしの中で何と比べられるかで決まるからです。
この「前提の違い」は、机の上では埋まりません。資料を読んでも、翻訳を用意しても、実際にその方が手に取ったときに何を言うかまでは分かりません。ところが、その相手の一部は、すでに日本に来ています。当社は、訪日の体験が海外での入口になると考えています。だから、当社がご一緒する5つの段は、事業計画、基盤づくり、商品開発、国内販路、海外展開という並びになっていて、海外へ出る段の一つ手前に、国内で出会う段が置いてあります。出ると決める前に確かめておきたいことは海外に出る前に確かめることに整理しています。
「先に出る」と「先に試す」で、判断が分かれる
とはいえ、先に海外へ出たほうがよい場面もあります。どちらが正しいという話ではなく、何を先に知りたいかで分かれます。
| 進め方 | 向いている場面 | 先に要るもの | 起きやすいつまずき |
|---|---|---|---|
| 先に海外の場へ出る | 取引の相手を早く見つけたい。すでに引き合いがある | 数量と納期の見通し、価格の考え方、続けて出る覚悟 | 一度きりで終わり、反応が手元に残らない |
| 先に国内で出会う | 誰に選ばれるかが、まだ絞れていない | 置いていただける場と、反応を書き留める手 | 売れた数だけを見て、何が起きたかを残さない |
| 二つを並べて進める | 作れる量に余力があり、任せられる人がいる | それぞれの窓口を分ける取り決め | 手が足りなくなり、どちらも中途で止まる |
三つ目を選べる工房は、多くはありません。売る先を増やすことは、作る時間を削ることでもあります。先に国内で試すという順番をお勧めするのは、思想の話ではなく、限られた手をどう配るかという話です。国内であれば、うまくいかなかったときの損が小さく、やり方を変えるのも早くできます。
試すとは、売ることではなく、問いを集めること
ここが、いちばん見落とされやすいところです。国内で訪日の方に手に取っていただいたとき、成果を「いくつ売れたか」で数えてしまうと、次につながる材料がほとんど残りません。数だけでは、なぜ選ばれたのかも、なぜ戻されたのかも分からないからです。
その場で集めるべきものは、数ではなく問いです。何に使うのかと聞かれたのか。似た品を自分の国で見たことがあると言われたのか。手入れの仕方を心配されたのか。持ち帰れるかどうかを気にされたのか。値段を聞いたあと、どんな顔をされたのか。これらは、その場で一行書き留めておかないと、翌週には思い出せなくなります。
集まった問いは、そのまま次の仕事の材料になります。同じ問いが繰り返し出るなら、それは説明が足りていないのではなく、品のほうを設計から考える合図であることがあります。逆に、聞かれたことに日本語で短く答えられないのであれば、訳しても伝わりません。翻訳は、答えが決まってからの作業です。
送り方も、この段のうちに確かめておかれることをお勧めします。割れやすい品、かさばる品、湿気を嫌う品は、包む手間と送料が利益をそのまま削ります。国内では箱ごとで済んでいたものが、一点ずつ遠くへ送る形になると、一件あたりの手間は何倍にもなります。売り方を変えるということは、包み方と送り方を変えるということでもあります。ここに気づくのが後になるほど、値段を決め直す話に戻ってしまいます。
どう進めるか
次の五つに答えられるようになったころが、海外へ出る段に移る目安になります。
- 手に取った方から、繰り返し出た問いを三つ挙げられるか
- その問いに、日本語で短く答えられるか
- 一点を遠くへ送るときの手間と費用を、把握しているか
- まとまった数の引き合いが来たとき、いつまでに作れるかを言えるか
- 問い合わせを受ける人と、答えられる範囲が決まっているか
五つのうち二つも埋まらないうちは、急いで外に出ないほうが、結果として早いことが多くあります。そして、いまは海外に向かないという判断もあります。作れる量に余力がない時期、代を継ぐ話が動いている時期、国内の取引先との条件を整えている途中。そうした場面では、当社から海外をお勧めしないこともあります。順番を戻したほうがよいと考えたときは、そのようにお伝えします。
国内で試す段そのものの進め方はPHASE4 国内販路とインバウンドに、置く場所と反応の残し方までまとめてあります。どの売り場から始めるかで迷われている場合は展示会・小売店・ネット販売の選び方のほうが先かもしれません。海外は、販路の一つが増える話ではなく、これまでの売り方をひととおり見渡すきっかけになる話です。
当社の進め方は、経営・事業診断から始まり、解決プログラムの策定、そして完了までの伴走という三つの段になっています。診断は、結果をご報告して課題を特定するところまでを無償で承っています。海外の話として伺っても、実際にご一緒してみると、先に整えたほうがよいことが別に見つかることがあります。そのときは、そちらから順にご相談させていただきます。