売上のご相談を伺うと、話はたいてい新しい販路か、新しい商品から始まります。けれども、いちばん近いところにおられるのは、すでに一度お買い求めくださった方です。その方から二度目が来ていないとき、理由は品物にあるとは限りません。多くは、こちら側の手元に何も残っていないことのほうにあります。
二度目が来ないのは、気に入られなかったからとは限りません
一度きりで終わっている方を思い浮かべると、何かご不満があったのだろうかと考えたくなります。もちろんその場合もありますが、伺っていると、もっと素朴な理由のほうが多いように思います。次に必要になったとき、こちらのことを思い出していただけなかった、というだけのことです。
工芸の品は、毎月お求めになるものではありません。次の機会は、半年後かもしれませんし、数年後かもしれません。その間、こちらから何も届かなければ、記憶は薄れます。薄れるのは自然なことで、相手の落ち度ではありません。
そして、思い出していただけないことの損は、その一件だけでは終わりません。ご家族やお知り合いに贈り物を探している方がおられたとき、まず名前が挙がる先にならない。ご紹介というのは、覚えていていただいて初めて起きることです。新しいお客様を探す手立ては、外にだけあるわけではありません。
覚えていることと、残っていることは違います
長くやってこられた方ほど、お客様のことをよく覚えておられます。あの方はこういう寸法で、こういう場面のためにお求めになった。伺っていて驚くほど細かく出てきます。ただ、その記憶は、その方おひとりの中にあります。
お一人で応対されているうちは、それで困りません。困るのは三つの場面です。人が増えて応対を分担するとき。代が替わるとき。そして、数年前のことを確かめる必要が出たときです。この三つは、いずれもいつか必ず来ます。
ここで、立派な仕組みを入れる必要はありません。表計算のような手近な道具で構いませんし、続けられる形であることのほうがずっと大事です。使いこなせない道具を入れるより、簡素でも埋まり続けるほうが役に立ちます。何をどこまで残すかは顧客管理とリピートに項目の形で置いてあります。
二度目は、こちらから作るより、待ち構えるほうが自然です
「もう一度」と聞くと、案内を送るという話に寄りがちです。けれども、案内を出すことと、思い出していただくことは、少し違います。お客様の側から接点が生まれる場面が、実はいくつもあります。そのときにこちらの手元が整っていれば、無理に売り込まずに済みます。
| 二度目が生まれるきっかけ | そのとき手元に要るもの | 無いと、どうなるか |
|---|---|---|
| 贈り物を探しておられる | 前回お納めした品と、その場面 | 一から伺い直すことになり、選ぶ時間が長くなる |
| 同じものを、もう一点 | 寸法・仕様の細かいところ | 同じに揃うかどうかを、その場でお答えできない |
| 直しのご依頼 | いつ、どういう仕様でお納めしたか | お預かりしてから調べることになり、日数が延びる |
| お知り合いをご紹介いただく | ご紹介くださった方が誰か | お礼の一言が抜け、次のご紹介が続かない |
四つとも、こちらから働きかけて起きるものではありません。向こうから来たときに、答えられるかどうかだけの話です。そして四つとも、答えられなかったからといって、はっきり断られるわけではありません。少し時間がかかっただけで済み、こちら側には何も起きなかったように見えます。だから気づきにくいところです。
案内を出すことがよくない、という話ではありません。ただ、出す先が分からない状態で数を打つより、この四つに確実に答えられるようにしておくほうが、先だと考えています。順番としては、まず答えられる状態を作り、そのうえで、こちらから声をかける先を選ぶ。販路ごとの役割の違いは販路の種類と使い分けにまとめてあります。
四つのうち、とくに見落とされやすいのが直しだと思います。手間がかかるわりに、金額は大きくない。急ぎの製造を抱えていると、後回しになりがちです。けれども、直しに来られる方は、その品を使い続けようとしておられる方です。これ以上に近いお客様は、なかなかおられません。
いつ、どこを、どう直したか。この記録が残っていると、次に手を入れる時期の見当がつきますし、応対も速く、確かになります。そして、まだ買っておられない方にとっても、直せるということ自体が、買う前の安心の材料になります。
長く使っていただくことを前提にした品では、直しは付随の仕事ではなく、関係の続きそのものです。ここを製造の片手間に置いておくと、いちばん近い方との接点を、いちばん粗く扱っていることになります。
どう進めるか
道具を選ぶ前に、次の五つが手元で言えるかを確かめてみてください。
- 直近の一年で、二度目のご注文がどれくらいあったかを言えるか
- その方々が、どこで最初にこちらを知られたかを言えるか
- あつらえの品の寸法と仕様が、応対した人以外にも分かる形で残っているか
- 直しのご依頼を受けたとき、いつお納めしたものかを調べられるか
- ご紹介をいただいたとき、紹介元の方にお礼を伝えられているか
一つ目に答えられない場合が、いちばん多いように思います。数が分からないということは、増えても減っても気づけないということです。まずはここから始めるだけでも、見え方が変わります。
二つ目は、販路の判断にそのまま効きます。新しい方がどこから来ておられるかが分かると、どの販路を厚くするかが決まります。売上をどこから伸ばすかを整理したい場合は「売上を伸ばす」を4つに分けて考える、販路そのものの選び方は展示会・小売店・ネット販売の選び方もあわせてご覧ください。
お客様の情報を残すことに、ためらいを感じられる方もおられます。もっともなことだと考えています。集める範囲を、その仕事に必要なところに限り、どう扱うかを決めておくことが前提になります。何をどこまで残すかは、お取り扱いの品と応対の形によって変わります。当社は道具の話から入ることはせず、まずどういう場面で二度目が生まれているかを一緒に見ていきます。経営・事業診断は、結果をご報告して課題を特定するところまでを無償で承っています。