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後継者を育てる

渡す相手が決まっても、そこから育てる時間が要ります。手が動くようになることと、事業を回せるようになることは、別々に計画するものです。ここでは、その二つの組み立て方を置きます。
こんな状態にお心当たりはありませんか
- 作業は教えているが、教える順番を決めていない
- 数字を見せる機会が、これまでほとんど無かった
- 任せてみたい仕事はあるが、失敗されると困ると感じている
- 本人が「継ぎたい」と思っているかどうか、確かめきれていない
育てる中身を、二つに分けて書き出す
育成の計画が立たない理由の多くは、育てる中身がひとまとまりのままであることにあります。二つに分けると、それぞれに必要な時間も、教え方も違うことが見えてきます。
| 育てるもの | 中身 | 進み方 |
|---|---|---|
| 技術 | 工程、道具の扱い、仕上がりの見極め | 年単位。積み重ねでしか進まない |
| 経営 | 数字を読む、顧客と向き合う、仕入先と話す | 場を与えれば、比較的短い期間で進む |
よく起こるのは、上の段だけが何年も前から進んでいて、下の段には一度も手がついていない、という状態です。渡す日が近づいてから慌てても、経営の経験は買えません。承継の時期から逆算して、いつから何を任せるかを先に置いておきます。
「見て覚えろ」だけに頼らない
技術の側で使われてきた教え方には、確かな理由があります。言葉にしにくい判断が多く、実際に手を動かすことでしか伝わらない部分があるためです。ただ、それだけに頼ると、教える側の時間が足りなくなったところで進み方が止まります。
そこで、工程を言葉にした手順を用意します。全部を書き起こす必要はありません。教えるたびに同じ説明を繰り返している箇所から書き始めると、負担が少なく、効き目もはっきりします。
書くのは、手順そのものよりも、判断の分かれ目です。どういう見え方のときに、どちらを選ぶのか。ここが残っていると、教える側がその場にいなくても進められます。残し方そのものは技を記録するで扱います。
経営の一部を、任せてみる
経営の側は、任せる場を作ることでしか進みません。新しい品物の企画、新しい販路の開拓など、区切りがはっきりしていて、失敗しても事業全体が傾かない仕事を選んで任せます。
ここで大切なのは、うまくいかなかったときに引き取らないことです。決めた本人が結果を引き受けるところまでが、経験になります。任せる範囲と、どこまでなら任せられるかの線を、先に決めておきます。
任せる仕事の選び方は、第4章 商品をつくるや第5章 販路をひらくの内容と重なります。どちらも手順が置いてありますので、任せた方と一緒に読んでいただけます。あわせて、産地の中や同じ業界で、同じ立場の若い方が集まる場に加わることも、外の物差しを持ち帰る機会になります。
「継ぎたい」と思える状態を先に用意する
育成の話は、教え方の工夫として語られがちです。けれども、その前に置かれる条件があります。継ぐ側から見て、この事業が続けたいものに見えているかどうかです。
働き方、受け取るもの、そしてこの先どこへ向かう事業なのか。ここが曖昧なままだと、どれだけ丁寧に教えても、身が入りにくくなります。「継がされる」と感じている方に、経営の判断まで引き受けていただくのは難しいことです。
行き先を決める手順は5年後・10年後の姿を決めるに置いてあります。育成の計画を立てる前に、ここを一度ご一緒に確かめておくと、教える内容そのものが変わってきます。
よくあるご質問
- 教える時間が取れません。何から手をつければよいですか
- 教えるたびに同じ説明を繰り返している箇所を、ひとつだけ書き出すところから始めていただくのがよいと考えています。一度書けば、次からはそれを見ていただけます。全部を残そうとすると始められませんので、繰り返しの多い順に一つずつ進めます。
- 任せた仕事で損を出しました。続けてよいのでしょうか
- 任せる範囲の決め方を見直す機会だとお考えください。失敗が起きること自体は織り込んで設計するものですが、事業全体が傾く大きさであれば、範囲が広すぎたことになります。金額と期間の上限を決めたうえで、もう一度任せる形をおすすめしています。