伝統工芸の事業経営ガイド > 第3章 担い手と事業承継 > M&Aという選択肢
M&Aという選択肢

ご親族にも社内にも継ぐ方がいないとき、会社ごと社外へ引き継ぐという道があります。廃業を決める前に並べておきたい選択肢です。ここでは、この道を選ぶときに先に決めておくことを置きます。
こんな状態にお心当たりはありませんか
- 継ぐ方の心当たりがなく、たたむことを考え始めている
- 社外へ引き継ぐ道を、選択肢として並べたことがない
- 相談したい気持ちはあるが、どこへ持ちかければよいか分からない
- 決算や取引の資料が、外の方に読める形になっていない
「身売り」という言葉から、いったん離れる
この道が最初から検討の外に置かれてしまう理由の多くは、言葉の印象にあります。けれども実際に引き継がれるのは、技術と屋号と顧客、そしてそこで働く方の仕事です。たたんでしまえば、そのすべてが同時に無くなります。
技術や屋号そのものに価値を認めて引き受けたいという相手もいます。品物が同じでなくとも、工程や素材の扱いに関心を持つ事業者はいます。探してみるまでは、相手がいるかどうかは分かりません。たたむと決める前に、一度並べておく値打ちのある道だと考えています。
三つの道の全体像は、コラム事業承継の選択肢は、親族内だけではないで並べています。ここでは、社外へという道を選んだときの進め方を扱います。
相談する相手が、どちらの側に立っているか
あいだに入る方が、売る側と買う側のどちらに立っているかは、思っている以上に大きな違いを生みます。双方から報酬を受け取る形では、条件をまとめること自体が目的になりやすくなります。まとまらなければ報酬が生じないためです。
私たちは、売手側か買手側か、どちらか一方にだけ立つ形をとっています。売手側に立つのであれば、条件が折り合わないときに「この話は見送りましょう」と申し上げられます。買手側に立つのであれば、無理のある価格を止められます。この考え方の背景は、先ほどのコラムで詳しく述べています。
どなたに相談されるにしても、その方がどちらの側に立っているのかを、最初に確かめておくことをおすすめしています。
価格のほかに、決めておく条件があります
交渉が価格だけの話になると、後から悔いが残りやすくなります。先に、譲れない条件を書き出しておきます。
| 決めておく条件 | 確かめること |
|---|---|
| 働いている方の仕事 | 雇用が続くか、条件がどう変わるか |
| 技術の継続 | 同じ工程が続けられるか、道具と場所が残るか |
| 産地との関係 | 組合や近隣の事業者との取引が続くか |
| 屋号と品物 | 名前を残すか、品目をどこまで続けるか |
この四つに順位をつけておくと、交渉の場で迷いにくくなります。すべてを満たす相手を待つのか、順位の高いものを守って進めるのか。この判断は、事業を営んでこられたご本人にしか決められません。
探し始める前に、資料を読める形にする
相手を探し、話し合い、条件を詰めるまでには相応の時間がかかります。体調を崩されてから動き始めると、選べる相手が減り、条件も選べなくなります。この道は、まだ余力のあるうちにしか選べない道です。
そのうえで、成否を大きく分けるのが資料の状態です。直近数年の決算、主な取引の条件、そして工程の中身。外の方が読んで分かる形になっているかどうかで、話の進み方が変わります。とくに工程は、見ただけでは価値が伝わりません。
工程を残す作業は技を記録するで扱います。資料の整え方そのものは継げる状態かを確かめると重なりますので、あわせてご覧ください。
よくあるご質問
- まだ決めていない段階で相談してもよいものでしょうか
- むしろ、決める前の段階でご相談いただくほうが選べる道が多く残ります。たたむと決めてから動き始めると、時間の余裕が無くなり、条件を選びにくくなります。相談したからといって、進めなければならないわけではありません。
- 従業員に知られずに進められますか
- 相手を探す段階では伏せて進めるのが通例です。ただし、いつ誰にお伝えするかは、早い段階で決めておかれることをおすすめしています。伝える順番が決まっていないまま話が進むと、いちばん伝えたかった方に後から伝わる、ということが起こります。