伝統工芸の事業経営ガイド > 第1章 いま産地に起きていること > 原材料の脆さは、産地ひとつでは解けない
原材料の脆さは、産地ひとつでは解けない

材料が手に入りにくくなった、値が上がった、質が変わった。どれも一社の努力だけでは戻らないことがあります。ここでは、自社で動けば変えられる問題と、産地全体で持つほかない問題を分ける見方を整理します。
こんな状態にお心当たりはありませんか
- 材料の値上がりを、価格に反映できていない
- 仕入先が一社だけで、代わりの当てがない
- 材料の質が以前と変わり、手間が増えている
- 同じ産地の他の工房も、同じ状況にある
抱えられる問題と、抱えられない問題があります
値上がりの理由が自社の買い方や量にあるなら、条件を見直すことで動く余地があります。けれども、材料そのものを作る方が減っている、扱ってきた先が取り扱いをやめた、という事情であれば、一社がどれだけ粘って交渉しても元には戻りません。
この2つを分けないまま交渉だけを続けると、時間と関係だけが減っていきます。先にすべきなのは、値段を下げる算段ではなく、いま起きていることがどちらなのかを確かめることです。
見分けるための3つの問い
| 確かめること | 一社の問題なら | 産地の問題なら |
|---|---|---|
| 同業の他社も困っているか | 自社だけが困っている | 周りも同じ状況にある |
| 仕入先が離れた理由 | 取引条件や量が合わない | 材料側の担い手や設備が続かない |
| 代わりの入手先 | 探せば見つかる | 産地の外にも見当たらない |
右の列に印がつくなら、それはその工房の力量の問題ではなく、産地が共同で持つべき課題です。ひとりで抱え込むほど、打ち手は遠のきます。
打ち手には、3つの方向があります
私たちが経営・事業診断で原材料の課題を伺ったとき、想定する打ち手として挙げているのは、共同購買・価格交渉・仕入先の開拓の3つです。
- 共同購買同じ材料を使う先と量をまとめます。誰と組むか、規格と時期を揃えられるかが要になります
- 価格交渉一度きりの値引き交渉にしません。先の見通しを渡すことで、相手も支度ができます
- 仕入先の開拓切り替えは値段だけで決めません。質と納期を確かめてから、少しずつ移します
どれも、進め方を誤ると既存の取引先との関係に響きます。実際の段取りは第7章 原材料と調達で扱います。なお、材料が変われば品物も変わりますので、何を変えてよく何を変えてはいけないかの判断は、作る側の話と切り離せません。あわせて第4章 商品をつくるもご覧ください。
産地の問題なら、産地の側で持つ
共同購買にしても、材料の作り手を支える取り組みにしても、一社では始められません。組合のある産地では組合が入口になりますし、無い場合は、同じ材料を使う先が集まるところから始めることになります。
私たちは、事業者の方のご相談だけでなく、自治体や組合の側で支援の体制やプログラムをつくるお手伝いもしています。域内に相談できる専門家がいない場合の橋渡しも、その一部です。産地としての進め方は第11章 産地・組合・自治体のためににまとめています。
よくあるご質問
- 値上げをお願いするしか、方法はないのでしょうか
- 価格の見直しは選択肢のひとつですが、最初の手とは限りません。材料の使い方や歩留まり、仕入れのまとめ方で吸収できる幅があるかを先に見ます。そのうえで価格に反映する場合も、伝え方と時期で受け取られ方が変わります。値づけの考え方は第4章 商品をつくるで扱います。
- 共同購買は、どこに相談すればよいですか
- 組合のある産地であれば、まず組合が入口になります。無い場合は、同じ材料を使う先に声をかけ、必要な量と時期を持ち寄るところからです。話をまとめる進め方が分からないという段階でしたら、その整理からご一緒に考えます。