伝統工芸の事業経営ガイド > 第8章 設備・生産・DX > DXは何から始めるか
DXは何から始めるか

デジタル化という言葉が先に立つと、大きな仕組みを入れる話に聞こえます。実際の第一歩は、いま紙と記憶に頼っているところを洗い出すことです。道具を選ぶのは、その後になります。
こんな状態にお心当たりはありませんか
- 何かを入れたほうがよいと言われるが、何からか分からない
- 以前に道具を入れたが、いつのまにか使われなくなった
- 紙と画面の両方に同じことを書いている
- 事務に取られる時間が、作る時間を圧している
大きな仕組みから始めない
まとまった仕組みを一度に入れると、合わなかったときに引き返せません。そして多くの場合、道具の側の決まりごとに仕事を合わせることになり、現場が窮屈になります。入れる前に、いまの仕事の形を知っておく必要があります。
最初にするのは、紙と記憶に頼っているところの洗い出しです。一週間ぶんの紙を集めて、一枚ずつ、誰の手から誰の手へ動いたかを書き出してみてください。骨は折れますが、ここが済んでいると、この先の選択はほとんど迷わずに決まります。
どこから手をつけるか、順番をつける
洗い出したものを、全部いっぺんに変えることはできません。どこを変えると、いちばん負担が軽くなるか。その順に並べます。
| 領域 | 効きやすい場面 | 先に決めておくこと |
|---|---|---|
| 受発注 | 注文の取りこぼしや、納期の行き違いがある | 誰が、いつ入力するか |
| 在庫 | 数を確かめに、そのつど現物を見に行っている | 何を在庫として数えるか |
| 顧客 | あつらえや直しのご依頼が多い | 残す項目を絞る |
| 経理 | 月末にまとめて処理し、数日を取られている | いまの流れを崩さずに移せるか |
どれから始めても構いませんが、いちばん困っているところから手をつけると、続きます。受発注と在庫の進め方は受発注と在庫の管理に、顧客の記録は顧客管理とリピートにまとめています。
小さく試して、戻せる形にする
小さな道具から試し、効き目を確かめてから広げます。狭い範囲であれば、合わなかったときに元のやり方へ戻すのも軽く済みます。引き返せる余地を残しておくことは、迷いではなく段取りの一部です。
始める前に、紙をやめる日を決めておいてください。期限を切らずに併用を始めると、紙のほうが最後まで残ります。やめる日が決まっているからこそ、現場は新しいほうへ移っていきます。入れる前に決めておく四つは、コラム紙の受発注を変える前に決めることにまとめています。
目的は、時間を作ることです
効率よくすること自体が目的ではありません。浮いた時間を、手を動かす仕事と、新しいものを考える時間へ振り向けること。そこまでが一続きです。ここを忘れると、道具を入れること自体が仕事になっていきます。
ですから、始める前に「何のために」を一行で書いておかれることをお勧めしています。半年後に見返したとき、その一行に近づいているかどうかが、続けるか見直すかの手がかりになります。使える制度があるかどうかは、進める段になってから調べれば十分です。考え方は第9章 資金と補助金で扱っています。
よくあるご質問
- 職人が高齢で、画面の操作に慣れていません
- 全員が使う形にしない、という選び方があります。入力する人を決め、他の方はこれまでどおり紙で渡す。受け取った側が入力する形であれば、現場のやり方を変えずに始められます。無理に全員へ広げると、そこで止まります。
- 外の方に手伝ってもらう場合、何を頼めばよいですか
- 道具選びの前段を頼まれることをお勧めしています。いまの仕事の流れを一緒に書き出していただく、という頼み方です。その前段さえ揃っていれば、道具そのものは後から選び直せます。