伝統工芸の事業経営ガイド > 第3章 担い手と事業承継 > 継げる状態かを確かめる
継げる状態かを確かめる

継ぐ方を探す前に、確かめておきたいことがあります。いまの事業が、渡せる状態にあるかどうかです。ここでは、収支の見通し、借入、工程の引き継ぎという三つを、どの細かさで確かめておくとよいかを順に置きます。
こんな状態にお心当たりはありませんか
- 継いでほしいとお伝えしたが、返事が保留のままになっている
- 直近の決算の中身を、ご家族や従業員の方に説明したことがない
- 借入の返済がいつ終わるのかを、ご自身のほかに知る人がいない
- ご本人にしかできない工程が、いくつあるか数えたことがない
「継ぐ人がいない」と「継げる状態にない」は別のことです
「後継者がいない」というお話を伺うとき、その言葉が指している状況は、方によって違います。心当たりの方がいない場合もあれば、心当たりはあるけれど、いまの事業の状態では踏み切れないという場合もあります。後者であれば、探す努力をどれだけ重ねても、事情は変わりません。
この言葉に混ざっている状態の分け方は、コラム「後継者がいない」という言葉をほどくで扱っています。ここではその先、渡せる状態へ近づけるために何をどこまで確かめるかという手順のほうを置きます。
確かめる順は、収支の見通し、借入、工程の引き継ぎの三つです。この順にしているのは、はじめの二つが手元の書類で片づくのに対し、三つ目には時間がかかるためです。時間のかかるものほど早く着手しておくと、後になって選べる道が残ります。
収支の見通しを、渡す相手が読める形にする
決算書がそろっていること自体は、渡せる状態の証明にはなりません。受ける側が知りたいのは、この先も同じように回るのかどうかだからです。直近3期ほどの売上と利益を並べ、増えた年と減った年の理由を一行ずつ添えるところから始めていただくと、話が具体的になります。
添える理由は、細かい分析でなくてかまいません。「この年は大きな注文が入った」「この年は材料が上がった」という程度で足ります。数字が動いた理由を言葉にできているかどうかが、外から見たときの読みやすさを決めます。
品目ごとの採算まで見えると、話はさらに進みます。何が利益を支えているのかが分かれば、渡した後に何を残し、何をやめるかを、受ける側が自分の判断として考えられるようになります。
借入は、残高よりも「いつ終わるか」をそろえる
借入については、残高の大きさよりも、返済がいつまで続くのか、何を担保に入れているのか、保証をどなたが引き受けているのかのほうが、承継の判断に効いてきます。渡す側にとって当たり前になっている条件ほど、言葉になっていません。
一覧にしておきたいのは、借入先、残高、返済の終わる時期、担保、保証の五つです。紙一枚で足ります。この一枚があるかどうかで、金融機関に相談を持ちかけるときの入り方も変わります。
経営者ご自身が引き受けている保証をどう扱うかは、承継の場面でよく問題になるところです。取り扱いには公に定められた考え方があり、取引のある金融機関や支援機関へ早めに相談されると、選べる形が見えてきます。資金の側からの整理は第9章 資金と補助金で扱います。
おひとりの手に残っている工程を数える
三つ目が、いちばん時間のかかるところです。ご本人にしかできない工程が多いほど、渡すまでに必要な期間は長くなります。逆に、その一覧が手元にあれば、どこから人へ移していくかの順番が決まります。
工程の洗い出しの手順は、担い手が減るということに置いてあります。外の方に担っていただいている工程や、道具と材料の支度まで含めて並べると、引き継ぐ範囲を具体的に決められます。
何をどの細かさで残すかについては技を記録するで扱います。ここで確かめたいのは、残す作業の細かさではなく、代わりのきかない工程がいくつあるかという数のほうです。
よくあるご質問
- 三つとも整ってから、継ぐ相手を探したほうがよいのでしょうか
- そうお考えになる必要はありません。三つを整える作業と、相手を探す作業は、同時に進めていただいてかまいません。ただ、収支と借入の一覧は、どの相手に渡す場合でも必要になります。相手が決まる前でも手をつけられる部分ですので、先に着手しておくと後が楽になります。
- まだ引退の時期を決めていないのですが、早すぎるということはありませんか
- 早すぎるということはないと考えています。準備そのものに年単位の時間がかかるためです。時期を決めていない段階でも、いまの事業がどう見えているかを確かめておくことには意味があります。先送りされた結果として、選べたはずの道が減っていく、というほうがよく起こります。