伝統工芸の事業経営ガイド > 第3章 担い手と事業承継 > 親族内で継ぐ
親族内で継ぐ

ご親族へ渡す道は、技術と顧客と屋号を一体で引き継げるという強みがあります。その一方で、家族であるがゆえに条件が言葉にならないまま進みやすい道でもあります。ここでは、渡すものを分けて考える手順を置きます。
こんな状態にお心当たりはありませんか
- 継ぐ意思は伝わっているが、いつ渡すかを話したことがない
- 工房や設備の名義が、どなたのものかを整理していない
- 継がないと決めたご家族に、どう向き合うかを決めていない
- 仕事は教えているが、数字を見せたことはない
渡すものを、三つに分けて考える
承継の話が前に進まないとき、渡すものがひとまとまりのままになっていることがあります。分けて考えると、決められるところから決められるようになります。分け方は三つです。
| 渡すもの | 中身 | 先に決めること |
|---|---|---|
| 経営権 | 会社の持分、議決の力 | 誰にどれだけ、いつ移すか |
| 資産 | 工房、設備、道具、土地建物 | 名義と、使い続ける条件 |
| 理念 | 何のために続けてきたか | 言葉にして残してあるか |
三つのうち、いちばん後回しになりやすいのが三つ目です。渡す側にとって当たり前になっている考え方ほど、言葉になっていません。受ける側は、仕事の手順は覚えられても、なぜその判断をしてきたのかまでは見えません。
承継の形そのものの選び方は、コラム事業承継の選択肢は、親族内だけではないで三つの道を並べています。ここでは、親族内へ渡すと決めた後の進め方を扱います。
誰に、何を、いつ渡すかを書き出す
三つに分けたら、それぞれについて、誰に、どれだけ、いつ渡すかを書き出します。早い段階で言葉にしておくほど、後から出てくる食い違いが減ります。いまは決められない欄があってもかまいません。決まっていないことが見えること自体に値打ちがあります。
持分の移し方や、相続のときの評価については、公に定められた取り扱いがあり、そこに合わせて選べる形が変わります。顧問の税理士の方や支援機関と早い段階でご一緒に検討されることをおすすめしています。私たちがお力になれるのは、その手前にある段取りの部分です。
資産の欄では、名義と使い方を分けて確かめます。工房や設備が個人の名義のままであることは珍しくありません。渡した後も同じように使い続けられるのか、どなたかの承諾が要るのかを、先に確かめておきます。
技量と経営は、別々に育てる
親族内の承継では、この二つが混ざりやすくなります。手が動くようになることと、値段を決め、取引先と向き合い、支払いの見通しを立てられることは、必要な時間も教え方も違います。技術のほうは何年も前から進んでいるのに、経営のほうは一度も話していない、ということが起こります。
もうひとつ、外での経験を挟む期間を意図して設けておく方法があります。他社で働く時間は、身内の中では得にくい物差しを持ち帰る機会になります。育て方の中身は後継者を育てるで扱います。
家族の中の話を、経営の議題として扱う
継ぐ意思の確認は、一方的にお伝えするのではなく、ご本人に伺うところから始まります。当たり前のようでいて、直接確かめたことがないまま何年も過ぎている、というお話をよく伺います。
あわせて、継がないと決めたご家族にどう向き合うかも、先送りにしないほうがよいところです。この話し合いを、家庭の話ではなく経営の議題として扱うと、決めるべきことがはっきりします。話す場と、いつまでに何を決めるかを置くだけでも、進み方が変わります。
よくあるご質問
- 子どもに継ぐ意思があるか、まだ確かめていません。切り出し方が分かりません
- 承継そのものの可否を一度で決めようとせず、小さな区切りに分けて伺う方法があります。「この秋までに、継ぐ気持ちがあるかどうかだけを聞かせてほしい」といった形です。決めることを一度に並べると、受ける側は答えにくくなります。順番に分ければ、話は進みます。
- 工房の名義が父のままです。先に変えたほうがよいのでしょうか
- 名義を動かすかどうかは、税や相続の取り扱いによって選べる形が変わりますので、専門の方とご一緒に検討される領域です。ただ、名義がどうなっているかを一覧にしておく作業は、いますぐ着手していただけます。何がどなたの名義かが分かるだけでも、相談の入り方が変わります。